アヒルを野外に放すということは 感染症・寿命

ある公園に大きな池がありました。水鳥もたくさんやってきます。その中に白い姿のアヒルが紛れていました。「いつも見てるけどあのアヒルはずっといるよな。元気そうだしアヒルはやっぱりこういう自然な水場でのびのび泳いで暮らした方が幸せなんだ。長生きしているし。」
野生化したアヒルは何年もその場で暮らしていたようです。

お知らせ内容一覧
野外に遺棄されたアヒルの寿命
アヒルたちが背負う感染症とは

ここでのアヒルは、家鴨(北京ダックやアイガモといった家禽化された鴨のことを指します)


野外でのびのび過ごせる野生化したアヒルは長生きするのか?

生き続けられるのは、近隣で暮らす方たちのフォローや公園の管理者の理解、訪れる人のマナーなどに助けられて運良く生き続けられたアヒルです。

公園にいるアヒルたちは、ほとんどがいつの間にか現れたアヒルとなります。アヒルは飛ぶことができないので人間が運んできています。動物遺棄です。その場所に住み着いたアヒルの管理下はその公園や市だと思われがちなのですが、餌や健康の管理、病気やケガを負ったときのケアなどは全く携わってないケースがほとんどです。遺棄されたアヒルは、迷子のペットとして法的には忘れ物などと同じ「遺失物」扱いとなり、その場にいるのです。

元々野生のアヒルは存在するのでしょうか?遺棄されたアヒルとそれ以前に遺棄されたアヒルとがつがいになり、卵を根気よく温め稀に雛が誕生することがあります。その誕生したアヒルが野生のアヒルになるのでしょうか?白い北京ダックとアイガモの掛け合わせの変わった斑柄のアヒルを見かけることがあります。

ブログやSNSでアヒルがいると紹介された公園のアヒルがケガを負ったときや何かトラブルがあったときなど連絡を受けることがあります。公園で訪れる人に餌をもらいながら、近隣の人たちが見守りずっとその場で長生きできるケースもありますが、ほとんどのアヒルたちは外敵にさらわれたり、心無い人に危害を加えられ酷い怪我を負ったり、最悪その場で死んでしまいます。

野外で他の水鳥たちとのびのび泳いで過ごしているアヒルたちの食や住という食べ物や住処が確保できても、安全は守れないという事実があります。「やっぱり広々とした野外の方が暮らしやすいのか。元々野鳥だもんね。」このような勘違いをしないように、一時その場で生きることができても健康で長生きするには多くの人たちの支援が必要となると知っていただきたいです。


野外に出たアヒルたちが背負う感染症とは

一度野外に放してしまったアヒルは様々な感染症にかかるリスクを背負いながら生きています。他の野鳥との接触が多くなるため、病原体を含む飛沫物や埃を介してマイコプラズマに感染しているアヒルもいました。マイコプラズマ菌の感染によって引き起こされる呼吸器疾患です。

鼻水が出て目が赤くなり、結膜炎や副鼻腔炎を起こし、気管支炎まで進行していることもあります。保護したアヒルは保護飼育する会員宅にいる他のアヒルとは一緒に過ごすことができず、通院や薬といった費用も嵩んできます。完全に治ればよいのですが難しいです。

関西にある大きな公園では、2007年~2014年まで8羽のアヒルやアイガモを保護。目から泡を出し嘴を開けてハァハァと明らかに苦しそうなアヒルもいました。

2014年に保護をした雌アヒルの例
保護したアヒルは目から泡が出ていて、真っ黒な下痢をしています。レントゲンで肺の上半分(頭側)が白く濁っていて、腸内にも気泡がたくさん写っていました。菌が悪さをしているようです。獣医師さんの話しによると鳩は必ずマイコプラズマを持っているということで、マイコプラズマに効く抗生剤と整腸剤を10日分もらいましが、 3日後にもう一度検査をして、その抗生剤が効いていないようなら種類を変えるということです。(先住アヒル)と3m以上近づけない、よく保温するなどの指示も受けました。

(目の淵が少し太くみえる:マイコプラズマの症状)

アヒルからヒトへと感染する人畜共通感染症なのか?

鶏マイコプラズマ以外のマイコプラズマも、鳥に感染するものは多く、無作為に検査をすると陽性率は50~60%あります。本鳥に症状がなければ気が付かないで飼っている方多いと思います。

そもそも人のマイコプラズマは哺乳類で共通感染する例は聞いたことがありますが、マイコプラズマ自体は人畜共通感染症としてはリストに載っていません。つまりアヒルに今感染しているマイコプラズマが人に感染することは考えにくいです。問題は多頭飼育している場合、他のアヒルに遷る可能性は大きいですが、症状が出ないことも多いのではないかと思います。細菌ですから内服薬で治療はできます。
相談役医師:塚本恵


感染症の遺伝子検査は高額ですが行わないと他のアヒルたちにも感染してしまいます。

2017年保護フォーちゃん


2018年保護羽ちゃん


野外に放されたアヒルたちは怖い思いをたくさんしています。鳥目ではないので夜間も周囲がよく見えていて、危険がないように静かに身を潜めています。だけど飛べないのでどうしてもトラブル巻き込まれやすいのです。餌がもらえないときは水草や藻を食べて過ごしているのでしょう。スリムな体型は餌だけでなく、飼いアヒルよりも神経を使っているせいだと思います。

「親切な人に見つけてもらってね」小さい子供とお母さんが段ボールに入れた犬を見つめている動物遺棄防止ポスターがありました。「優しそうに聞こえても、これは犯罪者のセリフです。」とも掲示されています。小さい子供に諦めさせるためなのか、飼うことが経済的に困難になったのか、どうでもよくなったのか、理由はわかりませんが、優しい言葉で子供に「いらなくなったら捨てればいい」そのような教育をされているように受け止めてしまいます。

日差しの強い高温な夏の日に川岸で段ボールに入って出られないまま過ごしていたアヒルもいました。どうしたかったのか、飛べないので出られないことはわかっていたはずです。親切な人が来てくれるはず、そう期待して置いていったのでしょうか。どうか見つけてください、託せる新しい飼い主さんを。